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紙面復刻:荒川静香つかんだ極上メダル

トリノ五輪、イナバウワーを披露する荒川静香(撮影・田崎高広)
トリノ五輪、イナバウワーを披露する荒川静香(撮影・田崎高広)

<冬季五輪トリノ大会:2006年2月25日付の日刊スポーツから>

 挫折を味わった舞姫が、極上のメダルをつかんだ。フィギュアスケートの荒川静香(24=プリンスホテル)が、真の世界女王に輝いた。フリーで、観客を総立ちにさせるほぼ完ぺきな演技。191・34点の自己ベストで、ショートプログラム(SP)3位から逆転の金メダルを手に入れた。欧米以外の選手では初の快挙。ここまでメダル0と低迷する日本選手団の救世主となった荒川が、歴史の1ページにその名を刻んだ。

 静かに響く君が代を、そっと口ずさんだ。98年長野五輪用に世界的指揮者、小沢征爾率いる「サイトウ・キネン・オーケストラ」が制作したフィギュア用のもの。その時も女子代表だった荒川が、8年の時を経て五輪の舞台で奏でさせた。

 「ビックリのひと言。まさか私が取れるとは思っていなかった。いまだに、ちょっと信じられません」。笑顔が、ぎこちない。優勝の実感をどう表現していいのか…。狂喜乱舞する周囲をよそに、新女王の視線は宙をさまよった。

 直前の夕食。テーブルに「粘っこさを出すため」の納豆と「転ばないように」と俵形のおにぎりが用意された。さりげないスタッフの気遣い。前日、還暦を迎えた佐藤久美子コーチの誕生日の席では、うなぎ1匹を丸ごと平らげた。「余計なことは考えなかった」。周囲への感謝の念と平常心が、最高の演技を生んだ。

 最初の3-2回転連続ジャンプを無難に決め、続く3-3回転は「跳んだ瞬間にバランスを崩したから」と即座に後半を2回転に変えた。コンビネーションジャンプを連続して失敗したコーエンとは好対照な冷静な判断。3秒間、求められるスパイラルでは「ワン・アイスクリーム、ツー・アイスクリーム…」と数えながら消化。技術点には反映されないが、あえて取り入れたイナバウアーで観客の拍手を誘った。

 「これがスケート人生の集大成になるんだなと思いながら滑ってました」。他の追随を許さぬ演技に、場内はスタンディングオベーションの嵐に包まれた。コーエンを抜き3人を残してトップ。最終滑走のスルツカヤが挑んだ、ロシアの史上初となるフィギュア全4種目制覇の野望が打ち砕かれた時、歴史が刻まれた。

 スキーがしたかった5歳の時。「込んでいるから」と連れて行かれたスケート場で競技に出会った。6歳で4泳法をマスターし、将来を嘱望されていた水泳はスパッとやめた。「あとはタイムを縮めるだけ。でもフィギュアはまだできないことがいっぱい。その方が面白い」。既に中学1年で3回転ジャンプを5種類マスターし「天才」と呼ばれた少女は常に困難を楽しんできた。それはここトリノでも変わらなかった。

 「運命の曲」に身を委ねた。イタリアオペラの巨匠プッチーニ作曲「トゥーランドット」は、04年の世界選手権で優勝に導いた曲。青と水色の鮮やかな衣装で冷酷なトゥーランドット姫の心が解かされる瞬間を演じた。「この曲で世界王者になったしスケートが楽しいと思えた。今回は最高のものに手が届いたし、やっぱり運命を感じました」。開会式でパバロッティが熱唱したのが劇内の「誰も寝てはならぬ」。まるでそれは、夜を徹してテレビにくぎ付けにされた日本のファンへのメッセージ。劇場のスポットライトは、荒川のためだけに用意されていた。【今村健人】

 [2010年2月26日14時0分]


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