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上村愛子(上)メダルを取るための謎解き

2009年7月28日

 「一体どうすれば、オリンピックの表彰台に立てるのか、謎です…」。トリノ五輪2日目の06年2月11日。5位に終わった上村は、滑り降りた斜面を見つめ、こうつぶやいた。18歳で初出場した98年長野は7位入賞。00-01年W杯種目別総合2位の実力をつけて臨んだ02年ソルトレークシティーは6位だった。1つずつ階段を上りながらも、メダルに手が届かなかった。
 上村は今、その謎を解き始めている。解決への糸口は、いくつかある。その1つは自分の「心」にある。
 「自分は小心者」「子どものころは、すごく周りを気にしちゃう子だった」。以前なら認めたくないことだったが、上村は近年、自分の性格を正直に打ち明ける。今年3月、福島・猪苗代で行われたフリースタイル世界選手権。スタート前、フィンランド人のヤンネ・ラハテラ・コーチに言った。「私、すごく緊張しています」。かつては胸にとどめていた気持ちを、今は口に出す。「正直に自分の気持ちを言えるので、心がクリアになってきた」と、上村は説明する。自分をさらけ出すことで、集中につなげられるようになった。この大会で2冠に輝き、バンクーバー五輪代表に内定した。
 モーグルは1人で滑り、採点を待つ。得点の内訳は、ターン(滑り)50%、タイム25%、エア25%。格闘技のように1対1で戦うわけでなく、タイムだけを競うわけでもない。自分との戦いはつまり、メンタルが大きなカギを握っている。
 心の安定―。自分に勝つために不可欠な、この要素を上村は日々、身につけようとしてきた。レース前の気持ちを打ち明けるのも、その1つ。アルペンスキーの皆川賢太郎(32)との結婚も、その一助だ。「これで隠し事も何もなく、毎日が過ごせる。2人とも頑張ることが好きなので、自信をもって残り数カ月を過ごしたい」。約2年間の交際中、一部の仲間に知られながらも、公にしにくかった窮屈さからも解放された。
 海外遠征中も朝晩、夫とメールをやりとりする。「おはよう」「おやすみなさい」など、中身はたわいない。ごく普通の新婚夫婦らしい幸せが、日々の暮らしをより充実させている。バンクーバー五輪を迎えるにあたり、母圭子さんとは、こんな言葉を交わすという。「今までのオリンピックで期待されながらメダルを取れなかったのも、ここにつながっているからなんじゃないの?」。
 女子モーグルの予選、決勝は、五輪の開会式翌日の10年2月13日。4年の歳月をかけて、謎を解きにいく。【佐々木一郎】

 ◆上村愛子(うえむら・あいこ)1979年(昭54)12月9日、兵庫県伊丹市生まれ。4歳でスキーを始め、小1で長野県に転居。中2でアルペンからモーグルに転向した。白馬高出身。五輪は3大会連続出場中。96年3月にW杯初出場を果たし、07―08年シーズンは初の総合優勝を果たした。W杯通算9勝。今年3月の世界選手権はモーグルとデュアルモーグルの2冠に輝き、バンクーバー五輪代表に内定。6月にアルペンスキーの皆川賢太郎と結婚した。156センチ、50キロ。


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