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メダル候補者たちの武器

スピードスケート岡崎朋美

2009年11月18日

 メダルまで0・05秒差に終わったトリノ五輪からもうすぐ4年。スピードスケート女子の岡崎朋美(38=富士急)は、そのわずかな溝を埋めるべく日本女子史上最多となる5度目の五輪に挑もうとしている。今なお変わらぬ努力を続ける鉄の女を支えるのは、3歳上の夫安武宏倫さん。気配りのできる夫の存在は、ミセスとして初の五輪に挑む岡崎の精神安定剤として、大きな武器となっている。

岡崎朋美の過去の五輪

大会 年齢 500メートル 1000メートル 寸評
94 リレハンメル 22 14位 出場せず 尊敬する橋本聖子とともに五輪出場
98 長野 26 3位 7位 銅メダル獲得で「朋ちゃんスマイル」
02 ソルトレーク 30 6位 出場せず 1本目で日本新記録出すも入賞止まり
06 トリノ 34 4位 16位 日本選手団の主将も務めて4位と健闘
スピードスケート岡崎朋美
ウエディングドレスをまとった岡崎朋美(右)は、夫の安武宏倫さんと手をつなぎ、氷上を滑りながら満面の笑みを見せた(07年11月24日)

 岡崎には愛の力がある。会社員の安武さんは都内在住で、富士急の拠点がある山梨に暮らす岡崎が一緒に過ごせる時間は年間30日程度。それでも夫婦生活から得る力を感じているという。

 岡崎 不安がなくなった。今まで(富士急の総監督を務める)長田監督がいて頼りにしていたけど監督は監督。夫はまた意味合いも違う。頼みの綱があればトラブルの時に引き出せる。滑るのは自分。でも1人で戦うより、心の支えがある。

 夫は阪神金本らと東北福祉大野球部でプレーしたスポーツマン。スケートは素人だが、自分なりに勉強して意見をぶつけてくる。「男子の映像を見て『清水(宏保)と他の選手のスタートはここが違う』とか言う。結構、的を射てるんです」。

 もちろん劇的な改善につながる助言ではない。それを承知の上で安武さんは気付いた点を岡崎に伝える。

 安武さん 名の通った選手のスタートとかコーナリングとか何が違うのか見てる。野球でも投手はクセがある。悪いクセを見抜くのではなく、いい選手が何でいいのかを探す。僕が言ったことが1つでも「なるほど」と思えればいい。

 夫の徹底した願掛けも、岡崎を鼓舞する。昨年、ジーンズをはいて観戦した試合で岡崎が転倒したため、以後、安武さんはスーツを着用して観戦する。岡崎の誕生日が9月7日、安武さん誕生日が11月7日、婚約指輪を購入した日が07年7月7日など「7」に縁があることから、夫婦ともに愛車のナンバーは「7」に変更した。五輪用に、と申請したパスポートを安武さんは、あえて仏滅を避けて受け取りに行った。

 岡崎は「野球人だから願掛けが好きなんでしょう。私は『勝手にやって』というタイプ。長野の大会前には、善光寺にお参りに行くけど『善光寺と向き合う北向観音もお参りしないとダメ』と言われた」と苦笑する。だが、夫の思いは受け止めている。

 岡崎はもともとメンタルが強く、プラス思考。安武さんはその上を行く。「今までやってきたものを本番に出せば大丈夫や」「若い子にエエ顔させるな。お前は岡崎朋美やろ!」。大阪出身の夫から時に優しく、時に熱い言葉で勇気づけられる。「ダンナは私よりプラス思考。投手だったので少しでも投げるコースを迷うのはタブーみたい。でも、あきらめも早い(笑い)。私はそこが違って粘り強い。互いのいい所を補っている」。取り入れる部分も、反面教師にしている部分もある。

 トリノ五輪は500メートルの1本目を終えて3位。合間にタイムの一覧表を見て2本目も無難に滑ればと欲が出た。五輪はわずかな心のすきをも許さない。「昔から心は大きくぶれないけど、小さくはぶれる。でも結婚して小さくぶれても戻れるようになった。気持ちも体もぶれないことが大事です」。夫婦愛が、岡崎の5度目の五輪に見えない力を与える。【広重竜太郎】

恩師が太鼓判

まだあどけなかった女子高生時代から岡崎を知る富士急の長田総監督は「あいつは変わりようがない。スケートがすべてだから。高い意識を持って臨んでいるよ」と話す。今夏は岡崎が「心臓が飛び出るくらい」という練習量をこなした。結婚後もアスリートとして心身ともに充実していると、恩師は認めている。

2人の馴れ初め

 トリノ五輪後の06年10月、2人は岡崎の親友が経営する長野市内のバーで出会った。実は安武さんは、その2年前から来店しており、岡崎が常連客だということを聞き「いつか紹介してよ」と、その親友に何げなく話していたという。

 「飲みに行こうや」という先制攻撃を岡崎は「夜は嫌。昼ならいいよ」と巧みにかわし、デートが実現。自然と意気投合し、交際が始まった。

 プロポーズはわずか3カ月後だった。海外遠征出発前の成田空港。3人での食事を終えた富士急の長田総監督が空気を読み、席を外して2人だけの時間をつくった。滑走路の見える喫茶店で安武さんは「今、言おうかな」と急きょプロポーズ。思いを告げた。

結婚後の岡崎

  • 07-08年
     07年8月に結婚を発表した。W杯の500メートルは最初の4戦とも2ケタ順位。11月に氷上結婚式も挙げるなど多忙で、腰痛悪化で残り試合を欠場。
  • 08-09年
     開幕前に特別強化選手から外れたが、、全日本距離別でW杯代表に選ばれ、08年12月のW杯では500メートルで2大会で5位入賞。09年3月のW杯では4年ぶりに500メートルの自己記録を更新した。
  • 09-10年
     全日本距離別で500、1000メートルともに2位で、連盟幹部は「怪物」と驚く。W杯の500メートルは10、13、12、16位と入賞がないが、今月のベルリンでの初戦では同リンクでの自己最高をマーク。

冬季五輪の主なミセス選手

  • モーグル
     4度目の五輪出場が内定している上村愛子は、6月に五輪3度出場のアルペンスキーの皆川賢太郎と結婚。
  • フィギュア
     日本代表で2度五輪に出場した井上怜奈(米国)は、夫ボルドウィンとのペアで06年トリノ五輪に続く出場を目指す。
  • バイアスロン
     菅弘美は夫の恭司とともに02年ソルトレークシティー五輪に出場。日本では冬季五輪初の夫婦代表だった。
  • スピードスケート
     長久保初枝は、妊娠2カ月で迎えた64年インスブルック五輪で3000メートルで6位入賞。出発直前に妊娠が分かり、流産を防ぐため黄体ホルモンを飲んで出場。同年10月に女児を出産した。


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