メダル候補者たちの武器
ノルディック複合
2010年1月22日
新生「複合ニッポン」が、距離(クロスカントリー)を武器に4大会ぶりのメダル獲得に挑む。スキー複合の日本チームは、昨年の世界選手権(チェコ・リベレツ)団体で優勝し、14年ぶりに世界大会の表彰台へ舞い戻った。92、94年の五輪では、前半のジャンプで差を広げて2大会連続で金メダル。98年長野五輪以降はルール変更などの影響を受けて低迷したが、若手を海外で転戦させるなど地道な強化が実り、後半の距離で逆転できる最強の5人がそろった。
複合ニッポンが生まれ変わった。今季の日本チームは、走力のある小林、渡部、湊に、ジャンプが得意な高橋、加藤で編成された。ベテランと若手、ジャンプが得意な選手と、距離が得意な選手が融合した5人でW杯を転戦した。W杯個人総合成績では小林の23位が最高だが、5人がそろえば話は別。メダル候補として五輪本番を迎える。
昨季は、この5人で世界選手権団体で14年ぶりの金メダルを獲得した。前半ジャンプ5位から後半距離で逆転するレース展開は、栄華を極めた90年代とは、まったく違うスタイルだ。92、94年五輪2大会連続で日本は団体金メダルを獲得。しかし、その後、度々ルール変更が行われた。荻原健司(現参院議員)の引退も重なり、対応が遅れ低迷した。全日本スキー連盟(SAJ)の阿部コーチは「ジャンプだけでは勝てなくなった」と振り返る。
優勝した昨季の世界選手権団体の結果を、94年リレハンメル五輪団体で金メダルを取った時のルールに当てはめ、シミュレーションすると違いが分かりやすい。昨季の世界選手権で日本は前半ジャンプは5位で、1位のフランスと24秒差で後半距離を迎えた。このジャンプの成績を、94年当時のルールに当てはめると、日本は1位フランスとの差は1分30秒差となり、実際の世界選手権より1分以上広がる。後半距離で日本が追い上げても3位止まり。94年当時のルールがいかにジャンプに比重が置かれているかが分かる。
前半ジャンプ型から後半距離型へ―。日本は98年長野五輪以降、シニアの練習に中高校生を参加させた。さらに、加藤、湊ら若手を積極的にW杯下部大会に転戦させ、海外で経験を積ませた。ジャンプと距離ともに得意な渡部を、高校生で06年トリノ五輪代表に選んだのも先を見据えてのこと。成田・複合部長は「目指すところを明確にしたかった。強化費を削られても若手は海外に出し、五輪に向けて競わせてきた」と、進むべき方向をはっきりと示し、強化してきた。
07年の世界選手権(札幌)後は、ふるいにかけて生き残った5人に絞り込んだ。今季、シニアの強化指定は五輪代表の5人だけ。オフの強化合宿やW杯遠征も5人で行い、競争心をあおった。W杯個人2勝の実績がある高橋は「ボクが頑張るんではなく、ボクも頑張るという形になった」。層に厚みが増し、最強の布陣ができた。
もう過去の栄光にすがる必要はない。「ジャンプ」の呪縛(じゅばく)を振り払い「距離」という武器を手に入れ、4大会ぶりの五輪のメダルを射程圏に入れた。エースの小林は「ボクらがこれから歴史をつくる」と力強く誓った。【松末守司】
◆94年リレハンメル五輪の複合団体 荻原健、河野、阿部の3人で挑み、前半ジャンプ(ノーマルヒル)で2位ノルウェーに5分7秒差の首位。後半距離で差はほとんど詰まらず、2位ノルウェーに4分49秒1差で、92年アルベールビル大会に続く金メダルを獲得
◆09年世界選手権団体VTR 湊、加藤、渡部、小林の4人で挑み、前半ジャンプ(ラージヒル)で加藤が128メートルを飛ぶなど首位フランスからは24秒差の5位で折り返した。後半距離は湊が4人を抜いてトップに躍り出るなど1走から首位争い。2走の加藤と3走の渡部もトップ集団で粘り、アンカー小林につないだ。最後の直線でドイツとデッドヒートとなり、同タイムでゴール。写真判定で日本の優勝が決まった。
今季の複合の日本勢成績と五輪展望
今季の日本勢のW杯個人総合は小林の23位が最高で渡部26位、加藤28位、高橋39位、湊47位(17日現在)。9日のW杯バルディフィエメ大会(イタリア)では、前半ジャンプで加藤が1位、高橋が3位となり、後半距離で渡部が4位、小林7位。16日のショヌーブ大会(フランス)では小林が今季日本勢最高の7位と調子は上向きだ。五輪ではノーマルヒル、ラージヒルの個人2戦と団体戦が行われ、日本は団体でメダルを狙える。団体は米国が1歩リード。今季、復帰したノルディックスキーW杯通算最多47勝のハンヌ・マンニネンを擁するフィンランドが続く。日本を含め、3位以下は混戦模様だ。
ノルディックスキー複合の競技方法
前半ジャンプの得点差をタイム差に換算し、トップから後半距離をスタート、最初にゴールした選手(団体戦では国)が優勝する。日本が団体を制した92年アルベールビル五輪で、このグンダーセン方式を導入。かつてはジャンプと距離をそれぞれ得点にして合計で争ったため、全選手が競技を終えなければ結果が分からなかった。ジャンプは3回2採用から2回、今は1回となった。
[2010年1月22日16時0分 紙面から]
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