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石井和男監督(上)ソリ改良に「研究会」

2009年8月12日

 「表情のF1」と呼ばれるボブスレーだが、これまでの日本代表は肝心のソリのメンテナンスにほとんど無関心だった。選手のチームワークもバラバラ。「このままでは日本のボブスレーは終わってしまう」。そんな思いを胸にトリノ五輪後、石井和男氏(34)が日本代表監督に就任。10年バンクーバー五輪に向け、新たな行動を起こしてきた。
 そのソリの存在は忘れられていたかのように、倉庫の片隅で眠っていた。
 5月、石井監督はバンクーバー五輪で使用する男子4人乗りのソリを探そうと、長野市にあるボブスレーの競技施設スパイラルに出向いた。目に留まったのは、98年の長野五輪前に日本代表が購入した古いソリ。白いボディーはホコリで灰色に変色していた。「劣化している部分もあったが、今までのものより状態はいい」。このソリを改良して戦おうと決めた。
 トリノ五輪まで日本代表は、ほとんどソリのメンテナンスをしたことがなかった。石井監督によると「オフの間は放置。油が固まっていた」というありさま。イタリアではフェラーリが携わるなど大企業が威信をかけて開発し、外国勢は毎年、新型に買い替える。だが、日本代表には最新型のドイツ製で約600万円のソリを毎年購入する資金はない。かといって整備もしない。速くなるわけがなかった。
 「君たちの国はソリをつくる技術力があるのになぜやらないんだ?」。石井監督は現役時代から外国選手に言われ、悔しかったという。「このままいったら、日本のボブスレーは終わる」。トリノ五輪後に監督に就任し、そんな現状を変えようと動いた。
 ボブスレーに関連するホームページを200件以上もチェック。物理学者として競技を開設していた井口和基氏のサイトを見つけた。メールで連絡すると、工学や航空学などの専門家を紹介され、ソリの開発に取り組む「ボブスレー工学研究会」が結成された。
 手始めに改良した男子2人乗りのソリは、別物に生まれ変わった。重心の位置も変え、後部の羽も「そんなものは必要ない」という理由から約50センチ切断。原則にもつながる振動を吸収する車体の構造に変えた。
 「-研究会」のメンバー約10人は年に数回、ボランティアで集まる。日大の川幡長勝教授は「最初は構造も分からないし、ソリで氷上を滑るなんて変なスポーツだなと思った(笑い)。でもやってみれば力学的にはものすごく面白い」と言う。ソリの専門家たちの研究意欲を刺激した。
 約3年かけて改良した2人乗りのソリのノウハウを使い、バンクーバー五輪に向けて4人の利用を改造中。6月から鈴鹿市にある金属加工業の工場で、8月末の完成を目指している。石井監督がかつて自家用車を改造した縁で、ソリの整備を格安で依頼した。この3年間で改良に要したのは150万円。「本来ならもっと費用はかかっている。いろいろな人に感謝しています」。石井監督の情熱に吸い寄せられた人々の汗と知恵の結晶が、ソリに注ぎ込まれている。【広重竜太郎】


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