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藤本貴大(下)「韓流」と対立→受け入れ

2009年8月26日

 ショートトラック男子の藤本貴大(24=セルモ)は、韓国人コーチへの反発を繰り返しながら、日本代表の主力へと成長した。
 昨年7月、日本代表のコーチに98年長野五輪銀メダリスト、韓国の金善台(キム・サンテ)氏(32)が就任した。「今となっては、あの対立があってよかったなあと思うんですよ」。今ならそう笑って振り返ることができる。しかし、1年ほど前は、日本代表が初めて迎えた外国人コーチに猛然と反発していた。
 金コーチが教える滑りは、日本の「常識」を覆すものだった。藤本ら日本人はそれまでコーナーで重心を前に置き、つま先を遠くに蹴るように滑っていたが、金コーチは、重心を後ろに置いて、尻を落とし、かかとを押し出すようにしなさいという。「真逆の動作。ももの裏の筋肉を使って滑っていたのが、大げさに言うと、ももの表側の筋肉を使う滑りをしろ、と」。学生が多い現在の日本代表では、藤本は年長の部類。積み重ねてきたものを否定され、そう簡単に「韓流」を受け入れる気持ちにはなれなかった。
 コミュニケーションを図ろうと、頭を軽くたたいてきた、金コーチの手を振り払ったこともあった。「学生は『すみません』とか、その場を流していたけど、僕は不愉快だった」。言葉をかけられても無視したこともある。敵意むき出しで「こんな練習して何になる」と口にしたこともあった。スタッフらに説得されて思いとどまったものの、本気で合宿から離れると考えたことも1度や2度ではない。2カ月ぐらいはほとんど会話をしなかった。
 だが、「常識」とは思えなかった「韓流」の滑りを受け入れた、他の日本代表の選手が徐々に速くなっていく。藤本は考え直した。「一生懸命なのは分かったので、ちょっとだまされる覚悟でやってみようと。そうしたら少し引っかかるものがあり、もう少しと。成績も少しずつ出るようになった」。10月のW杯開幕戦米ソルトレークシティー大会から好調を維持した。「韓流」の滑りを最初は否定した自分を、恥ずかしく思うようになっていた。
 今では金コーチを親しみを込めて「サブ」と呼ぶ。韓国語で師匠や先生を意味する言葉だ。金コーチの勧めもあって韓国の体育大学に短期留学もした。「彼らは大学に通いながら日常的に、日本の合宿並みの練習量をこなす」。世界一の選手層を誇る強豪の強さに触れ、自分自身の練習を見つめ直すこともできた。
 3月の世界選手権の5000メートルリレーでは金コーチからエースポジションのアンカーに指名された。「フジ」や冗談めかして「セルモ」(藤本の所属先)と呼ばれ、日本代表選手の育成方法などを相談されることもある。以前は苦痛だった合宿は厳しくても苦にならなくなった。「今となっては、あの対立があってよかったなあと思うんですよ」。バンクーバー五輪という目標に向け、「サブ」との濃密な時間が楽しいと思えるようになっている。【高田文太】


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