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中野友加里(上)「3回転半」高速に磨き

2009年9月17日

 フィギュアスケート女子の中野友加里(24=プリンスホテル)が、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器に、来年のバンクーバー五輪の表彰台を狙っている。現在、女子では世界でも中野と浅田真央しかできない3回転半にこだわって、練習メニューも変えた。07年世界選手権4位の実力者は、夢の舞台に向けて大技の精度を高めようとしている。
 現役の女子で世界で2人しかできない3回転半に、中野は強いこだわりがある。垂直跳びは30センチ余り。ずばぬけたジャンプ力があるわけではないが、07年には4大会連続で決めるなど成功率は高い。昨季は股(こ)関節痛に悩まされ、回避する大会が多かったが、今季は「失敗のリスクが高いけど、できる限りやりたい」と、初の五輪で成功させることを思い描いている。
 ジャンプ力のない中野が3回転半を跳ぶことができる理由は、回転の速さにある。スポーツ・バイオメカニクスが専門で、フィギュアのジャンプを研究している名大の総合保健体育科学センターの池上康男教授は「3回転半を跳ぶには高く跳ぶか、速く回転するかの2つ」と説明する。一般的に1回転に要する時間は約0・2秒。多くの女子トップ選手の滞空時間は0・6秒前後で、必然的に3回転までしか跳べない。中野の滞空時間は0・5秒ほどだが、約0・15秒で1回転できる高速回転がある。
 高速回転を可能にしているのは156センチ、44キロという小柄な体。池上教授は「体の大きい人の方が高く跳べる。でも小さい人の方が回転軸も小さいので、速く回れる。だから伊藤みどりさんも成功できた」と、女子で初めて世界で3回転半に成功した、92年アルベールビル五輪銀メダリストの名前を挙げた。
 実は伊藤さんは中野が手本としていた存在だ。幼少から伊藤さんと同じ山田満知子コーチに師事。今の中野よりも10センチ以上も小さい145センチの伊藤さんが、次々と3回転半を成功させる姿を目に焼き付けてきた。そして中学2年時の練習中に初めて3回転半を成功させ、高校2年時には採点の厳しいシニアの国際大会で初めて決めた。
 中野 一番良かったのは身近に伊藤みどりさんがいたこと。目からの吸収が大きかった。コツは跳ぶタイミング。あとは回転速度とか角度も。踏み切った瞬間に(成功か失敗か)だいたい分かります。踏み切りがすべてだと思います。
 成功率を高めるため、週2日だった陸上トレーニングを今夏は週3日に増やした。従来の器具を使ったウエートトレーニングはほとんど行わず、ステップやダッシュを増やした。池上教授は「陸上のジャンプと違い、単に筋肉の量を増やしても3回転半の成功率が上がるわけではない。フィギュアのジャンプには弾性のある筋肉が必要」と解説する。今夏の練習には、高速回転の強化に必要な要素が組み込まれていた。
 中野 世界のレベルはどんどん上がっているので、自分の体と演技も対応していかないといけない。失敗が頭をよぎると、どうしても引いてしまいたくなる。単に挑戦するだけでは点数をもらえない。引くことも時には必要。でも五輪はあこがれであり夢。最高の演技をしたいですね。
 シーズン初戦のGPフランス杯まであと1カ月。中野は最大の武器を存分に発揮できるための準備を整えている。【高田文太】(つづく)

 ◆中野友加里(なかの・ゆかり)1985年(昭60)8月25日、愛知・江南市生まれ。椙山女学園高―早大―早大大学院。6歳でスケートを始め、00年全日本ジュニア選手権優勝。02年世界ジュニア選手権銀メダル。05年のNHK杯優勝、GPファイナル3位でブレーク。世界選手権には06年から3年連続で出場し、最高は07年の4位。156センチ、44キロ。


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